請求額から振込手数料を差し引いて振り込むとき、軽減税率で何か変わる?

こんにちは。消費税にうるさい税理士 石川です。

取引先とのお金のやり取りでは、銀行振り込みが一般的。

そこで例題。
飲食料品を10,800円で仕入しました。代金は銀行振り込みします。仕入先から「振込手数料、差し引いて良いよ」と言われたので、振込手数料756円を差し引いて振込ました。

「手数料、どっち持ち?」みたいなことは取引上、よくあることですよね。

この振込手数料について、ちょっと古い国税庁の資料には、消費税の視点で2通りのやり方があると、書いてあります。
今日はこの2通りの説明をした後、10月以降、軽減税率と標準税率の二つになったときの問題点、さらに令和5年にインボイス制度が始まったときの問題点、それぞれについて考えてみます。

パターン別仕訳。消費税額はこうなる。

まず、現在の消費税率一律8%の場合で、それぞれのやり方を紹介します。

パターン1

振込手数料は、「差し引いて良いよ」と言った販売者が負担すると考えます。感覚的には、ごく普通に感じると思います。

販売者
①販売時

借方
10,800
貸方
10,000
800

 

②回収時

借方
10,044
700
56
貸方
10,800

 

消費税は仮受消費税等800円と仮払消費税等56円の差額で744円になります。
もし、他に何の取引もなければ、この744円を税務署に納めます。

 

購入側

①仕入時

借方
10,000
800
貸方
10,800

 

②支払時

借方
10,800
貸方
10,044
756

 

消費税は購入に支払った800円だけですね。この800円は、仕入れた飲食料品を販売するときに預かった消費税から差し引くのですよね。

パターン2 値引方式

ちょっと一捻りあります。販売者が振込手数料分を値引きすると考えます。

販売者

販売者
①販売時

借方
10,800
貸方
10,000
800

 

②回収時

借方
10,044
700
56
貸方
10,800

 

仮受消費税が借方(左側)と貸方(右側)に出ています。これは相殺されて、800円-56円=744円。納める税金は744円になります。

購入者

①仕入時

借方
10,000
800
貸方
10,800

 

②支払時

借方
10,800
 
 
700
56
貸方
10,044
700
56
756

 

 

仕訳が多いですね~。

販売者が値引してくれたのですから、支払う側も値引してもらった、という処理をします。

そのうえで、振込手数料を金融機関に支払います。

消費税は、仮払消費税等があちこち出てきますが、借方(左側)と貸方(右側)を相殺すると800円―56円+56円=800円。

パターン1とパターン2、どちらの処理をしても販売者、購入者それぞれの消費税は同じです。国税庁の資料にも、「どちらの処理をしても消費税は同じ」と書いてあります。

どっちがわかりやすいですか? 多分パターン1だと思います。
が、購入者の方で敢えて、パターン2を取ることがあります。

パターン2を使うメリット

購入者が簡易課税を使って納税額を計算している場合です。

簡易課税というのは特別な計算方法です。支払った消費税=仮払消費税等を無視するのです。ということは、パターン1の56円が無視されてしまい、預かった税金800円だけを基に計算することになります。

パターン2では56円は預かった消費税を返す、という処理なので、744円を基に計算することができるのです。

同じ理由で、翌々期の納税義務の判定と、翌々期に簡易課税を使えるかどうか、という判定にも有利になります。

※売上値引や仕入値引を使う場合、正しい帳簿の記載と保存という要件があります。

軽減税率と標準税率の二つになったとき

10月以降、軽減税率が始まったらどうなるでしょう。
今取り上げている商品は飲食料品なので、10月以降も8%ですね。

振込手数料は消費税率10%なので、756円から770円になると思われます。
値引は? もともと軽減税率8%で販売した品物の値引きなので、値引きの消費税率も8%です。
さらりと言ってしまいましたが、これ重要。振込手数料のことは意味がわからなくても、軽減税率8%が適用される品物の値引(返品も!)軽減税率8%だ、ということだけ覚えてもらえれば大丈夫。

値引は8%で、振込手数料は10%。ちぐはぐになっています。
仕訳で確認してみましょう。

パターン1

販売者
①販売時

借方
10,800
貸方
10,000
800

②回収時

借方
10,030
700
70
貸方
10,800

 

消費税は仮受消費税等800円と仮払消費税等70円の差額で730円になります。

購入者

借方
10,000
800
貸方
10,800
借方
10,800
貸方
10,030
770

 

消費税は800円。

パターン1は相変わらずシンプルです。

パターン2 値引方式

販売者
①販売時

借方
10,800
貸方
10,000
800

②回収時

借方
10,030
713
57
貸方
10,800

 

振込手数料相当額の売上値引770円のうち、消費税は、770円×8/108=57.037…円です。飲食料品の値引きなので、消費税率は8%なのです。

仮受消費税等が借方(左側)と貸方(右側)に出ています。これは相殺されて、800円-57円=743円。納める税金は743円になります。

購入者
①仕入時

借方
10,000
800
貸方
10,800

②支払い時

借方
10,800
 
700
70
貸方
10,030
713
57
770

 

消費税は、あちこち出てくる仮払消費税を相殺すると800円―57円+70円=813円。

パターン1とパターン2で消費税額が違います。

販売側が簡易課税の場合、パターン2で預り消費税が少なくなるので、有利であることは変わりないのですが、それにしても、ややこしくなる気がしませんか。

税率がふたつになったときの問題点

軽減税率制度が始まるとパターン1とパターン2で消費税額が違ってしまう。

国税庁の資料は平成12年のもので、「いずれの処理をしたとしても売主、買主ともに納付税額に差異は生じない」と書いてあります。差異が生じないことを前提としてどちらでもよいと言っているのだとしたら、差異が生じることとなると、どうなるのだろう?と思います。

インボイス制度が始まったときの問題点

今年の10月以降よりももっと先、インボイス制度が始まったときに目に見えてくる問題点です。

国税庁の資料には、「販売者が値引としているならば、仕入側も見合いで値引にしなさいよ」ということが書いてあります。

見合いとはいうものの、支払う側がパターン2を使うということは、まずありませんでした。どの処理でも消費税は変わらなかったし、支払う側と販売する側が「うち値引にするから、そっちも値引ね」みたいなすり合わせもなかったので。

この、すり合わせがなかった、というところが、インボイスではネックになってきます。

今年の10月以降、請求書の書式が変わります。「軽減税率の品物です」ということと、「税率ごとの合計額を書く」のですよね。これを区分記載請求書等といいます。

この区分記載請求書等については、まだ良いのです。何でまだ良いかというと、取引金額が30,000円未満については、この区分記載請求書等を保存する必要がないからです。

でも、令和5年から始まるインボイス制度では、「30,000円未満は保存しなくていいよ」という特例が、電車代など限られたもののみになります。

そして、値引についても、販売者がインボイスを作らないといけません。この値引のインボイスを適格返還請求書といいます。

数百円の値引きのためにも「適格返還請求書」が必要になるのですねえ。果たしていちいちやりますか?

やれるとしたら、翌月の請求書に、前月の振込手数料分の値引について記載することくらいですかね(インボイスと適格返還請求書を一つの書類にまとめることはオッケーとされています)。

まとめ

かなりマニアックな話でしたが、ややこしいでしょう? 取引上、特別でも何でもない振込手数料の売主負担。細かいところにまで国税庁の資料があることに感心します。

今後、この取り扱いが変わるのか、スルーされていくのか、気になります。

おまけ

税理士や税理士事務所の職員は、クライアントの税額が少しでも少なくなるように、手数料ではなく、値引きにしよう、などの小さな工夫を積み重ねていることもついでに知ってもらえたらうれしいです。

 

出典

TAINS 消費事例003948 第10 仕入税額控除 10-108 売掛金から差し引かれる振込手数料の取扱い