「消費税の転嫁拒否等に関する調査」とはいったい何?

こんにちは。消費税にうるさい税理士 石川です。

消費税は取引先から預かって、国に納めるものです。消費税率が8%から10%になったら、2%分、取引先から多くもらわなければなりません。「うちは8%分しか預かってないから、8%分しか納めない!」と税務署で主張しても通らないですからね。

取引先の顔色を気にして、「言いづらいなあ・・・」と思っていませんか。もしかして、一方的に「据え置きだよ」と言われていませんか?
そういうときのための法律や窓口があるんですよ。

「消費税の転嫁拒否等に関する調査」というアンケートはいったい何?

「最近、中小企業庁のマークの付いた茶封筒がきたよ」という個人事業主さんや中小企業の方がいらっしゃるかと思います。
これは、公正取引委員会と中小企業庁がやっている消費税に関するアンケートです。何年も前から行われています。
毎年、すべての企業にアンケートを送っているわけではなく、抽出して送っているようです。

昨年あたりからは、個人事業主さんのところにも送られてきているようです。
個人事業主さんへは、所轄の税務署が送り主になっており、「公正取引委員会と中小企業庁には個人情報は提供していません」という注書きがされています。この注書きの意味するところは、「税務署は申告書を受け付けているので、誰がどこでどんな商売をしているか知っている。けれども、その情報を他の機関に提供することはしていませんよ」といった感じでしょうか。

この調査、「出さないといけないの?」と思われるかもしれませんが、任意ですので出さなくてもOK。
ただ、取引先との関係で気になることがあったら、臆することなく利用しましょう。期限厳守ではないので、遅れても大丈夫です。
どんなことで利用できるのか、以下で説明します。

転嫁拒否とは?

転嫁拒否、という言葉がそもそも難しくてよくわかりませんよね。

例えば、
来年10月に消費税率は10%にアップするのに、取引先から「税込金額は据置でお願いね」と言われたら、どう思いますか?
取引先からのこういう要請(圧力?)が消費税の「転嫁拒否」の一つの例です。

消費税転嫁対策特別措置法という法律が、こういう行為を禁止しています。禁止の規制対象は、
・売上高100億円以上という大規模な小売業者
・個人事業主さん、中小企業などが仕事をもらう相手の法人
です。二つ目の方は、例えば、大工さんと建設会社、「下町ロケット」の佃製作所と帝国重工のような関係ですね。
取引で優位な立場を利用して、「消費税のことで下請けいじめをしてはいけませんよ」、というイメージです。

取引先が上の二つの規制対象に当てはまらなくても、取引先に問題行為があれば、独占禁止法とか下請法という法律で対処してもらえます。

以下に一つでも当てはまると、消費税分の請求のことで不当な扱いを受けていると言えるかも(アンケートより)

公正取引委員会と中小企業庁が実施しているアンケートをそのまま書き写します。
当てはまったとしたら、それは取引先から消費税について不当な圧力をかけられていると言っても良いかもしれません。

□ 取引先から消費税分を支払ってもらえない
□ 支払いの際に消費税分を差し引かれて支払われた
□ 税込みの取引で、消費税率が8%になっても総額は増税前と変わらなかった
□ 消費税8%分支払ってくれたが本体価格(税抜き価格)の値下げをされた
□ 消費税率8%になった時、引き上げ3%の上乗せ交渉をしたが引き上げてもらえなかった
□ 取引先の指定した商品を買ったり、サービスを利用しないと消費税分を上乗せしないと言われた
□ 本体価格(税抜価格)での価格交渉を申し出たが応じてもらえなかった
□ 個人事業者、または免税事業者であることを理由に消費税率引き上げ分を支払ってもらえていない
□ 来年の消費税率10%への引き上げを理由に、先行して本体価格(税抜価格)を引き下げられた

とくに1番目「取引先から消費税分を支払ってもらえない」、8番目「個人事業者、または免税事業者であることを理由に消費税率引き上げ分を支払ってもらえていない」が気になりますね。
「個人事業主だから消費税は関係ない」、「免税事業者だから関係ない」、と思っていませんか?

個人事業主には消費税分を支払わないというのはおかしい

個人事業主で、しかもやっている仕事が、作家、インストラクター、コンサルタントなど、モノの受け渡しではなくサービスの提供だと消費税は関係ないかな、と思ってしまうかもしれません。
複数の会社と契約しているアドバイザーはサラリーマンみたいなものだから消費税は関係ない、と思っているかもしれませんね。
どちらも間違いです。
個人事業主が行ったサービスは、ちゃんと消費税がかかる取引ですからね。

免税事業者も消費税を別途請求すべし

免税事業者というのは取引先から預かった消費税を国に納める義務がない事業者のことをいいます。
免税事業者とは?と書き始めると、コラム1つでも収まらないくらいです。ここでは、事業を始めた人で、開業後まだ1,2年目の人や、2年前の売上が1,000万円以下の個人事業主さんは免税事業者であることが多い、と考えてください。

この免税事業者が請求額に上乗せした消費税額は、国に納めるのではなく、懐に収まります。

だから、「消費税率のアップ分をもらえなくても実害はない」、「アップしてもらえたら、ラッキー」と一瞬思ってしまうかもしれません。
それは大きな間違いです。
消費税率がアップするときには、原材料、水道光熱費、交通費など仕事のための支出全般が消費税の増税に伴ってアップします。

正しく消費税増税分を請求しなければ、利益が減ります。

消費税転嫁対策室というのもある

先にも書きましたが、「消費税の転嫁拒否等に関する調査」の回答は任意ですから出さなくてもOK。

ただ、この調査票で悪質な企業を、匿名で通報できます。
裏面に、相手先法人事業者の名前を書き込む欄があります。指摘された法人には公正取引委員会と中小企業庁の指導が入ります。

中小企業庁の中に消費税転嫁対策室というもがあります。調査票に当てはまるようなことがあったときの相談窓口です。弱い立場だから、と泣き寝入りしちゃだめですよ。