2019年10月をまたぐ期間の年契約のメンテナンス料を支払ったら、消費税の申告にどう影響する?

こんにちは。消費税にうるさい税理士 石川です。

機械のメンテナンス料や地代家賃、誰でもが関わる身近なものでは通勤定期など、3ヶ月、半年、1年など一定期間の費用をまとめ払いすることはよくあると思います。
この期間が決算期をまたいだときは、どう扱ったらよいのでしょうか?

原則的な考え方では、サービスは、受けたときに始めて経費になります。「お金払えば経費でしょ?」というわけにはいきません。でも、全て原則どおりでは、手間がかかりすぎる…。ということで別の扱いが認められています。

さらに、もう一歩踏み込んで、消費税率がアップする今年の10月をまたいだらどうなるか?も考えてみます。

1年分を前払する場合、決算書にはどのように載る?

(例)

決算月が3月の法人
1年契約のホームページのメンテナンス料。契約期間は1~12月、毎年1月に1年分のメンテナンス料120,000円(消費税込み)を払うとしましょう。

原則

3月の決算時点で1~3月分はサービスが完了していますので、3か月分だけが経費になります。

特例

12ヵ月分全額を経費とすることができます。

特例が許される理由とメリット

法人税や所得税の通達で、支払った日から1年以内にサービスを受けるものであれば、サービス期間が翌期にまたがっていても支払った期の経費にしても良いですよ、と認めています。ただし、一つ条件があって、毎年同じように処理しなければいけません。「去年は全額を経費にしていたけど、今年は赤字になりそうだから経費にしない」というように年毎に違う処理をすることは許されません。

1年分の前払を一つ一つ月割り計算するという事務の負担が少なくて済むというのが最大のメリットです。
支払ったときにまだサービスを受けていない分まで経費にできるということは、初めて支払った時点だけで考えれば節税とも言えますね

翌期以降も毎年同じ処理をしますから、結局、税額は同じになっていきますが。

法人を例にしましたが、個人事業主さんも同じです。

1年分の前払費用に含まれる消費税

このメンテナンス料には消費税が含まれています。消費税はどう扱われるのでしょうか?

消費税は、一つの事業年度(正確には一つの課税期間)に「預かった消費税」の合計から「支払った消費税」の合計を差し引いて、差額を納付するのでしたよね。

1年分の支払額は120,000円ですから、120,000円×8/108=8,889円が消費税です。129,600円などいかにも8%が上乗せされているときは、消費税は9,600円だ、とわかりやすいですが、消費税込みで120,000円となっている場合、8/108を掛けて逆算するのですね。

決算書で、上で書いた原則のように3ヶ月分のみを経費にしたときは、3ヶ月分に含まれる消費税をその事業年度の「支払った消費税」に入れます。

では、特例を使って12ヶ月分の全額を支払い時の経費にしたらどうなるでしょう。消費税も同様に120,000円に含まれる消費税の全額8,889円が支払い時の「支払った消費税」となります。

サービス期間が2019年10月をまたぐときは?

2019年10月以降は消費税率は10%となります。

決算書上の扱いは変わりません。3ヶ月分を経費にしても良いですし、1年分を経費にしても良いです。

では、120,000円に含まれる消費税、どう計算したらよいでしょうか?
1~9月分は8%で、10~12月分は10%として消費税額を出してみましょう。

税込の月額は
120,000円÷12=10,000円
だから、
1~9月の消費税は8%
10,000円×8/108=740円
10月~12月の消費税は10%
10,000円×10/110=909円
1年分だと740円×9ヶ月+909円×3ヵ月=9,387円かな?

この9,387円については、国税庁が取扱いQ&Aというものを出しています。
実は、9,387円、前払費用の支払い時に「支払った消費税」に入れることができません。そもそも消費税の申告書の様式自体が今年の10月以降でないと、10%の税率に対応したものにならないのです。

国税庁の取扱いQ&Aによりますと、10月以降の分の消費税909円×3ヶ月=2,727円を仮払金とし、翌期に「支払った消費税」として差し引いてください、ということです。

このQ&Aでは、追加で別の扱いも認めています。
支払い時に1年分を8%で差し引いておく。つまりは120,000円×8/108=8,889円を差し引いておく。
本当に10%になったときには、次の事業年度に10月から12月までの分までについて値引があったものとして8%分を精算し、改めて10%により2,727円を差し引くという処理でもよい、ということです。

どうするのが現実的か?

1年分の前払の場合、請求サイドとしては、10月以降分は10%になるという前提では請求額を出さないと思います。とりあえず、通年8%のままで計算した請求になるかな、と。
10%になることは決まっていますが、本当に延期しないか、これまで何度も延期されてきたことを考えると、断言はできませんからね。

ただし、上で見てきたように、120,000円の例ですと、消費税率がずっと8%だったら、本体111,111円消費税8,889円です。
10月に税率が本当にアップしたら、本体110,613円消費税9,387円。請求側としては損してしまいますよね。

10月に税率が本当に上がったらおそらく、差額の請求をするケースが出てくると思います。実際、5%→8%のときも見かけました。
ちなみに、このような差額の請求について、会計データの入力時は消費税の差額を払ったと考えるのではなく、メンテナンス料(税込10%)の追加払いとして処理してくださいね。

以上いろいろ考えると、前払費用の支払い時には、一体いくらを本体価格、いくらを消費税(10月以降分は仮払金)にしていいのかすら怪しくなってきます。

前払費用があったら、支払い時にいったん全額を8%で差し引いておき、次の事業年度に値引があったものとして精算する方法が楽なのかもしれません。