医療機関が薬の購入時に支払った消費税は、医療機関が負担する。医療機関が消費税で損していると言われる理由

こんにちは。消費税にうるさい税理士 石川です。

消費税が非課税とされる取引があります。医療はその代表例です。
医療に消費税がかからないから、消費税は弱者に優しいのか、というと実はそうではなく。
医療機関が薬を買ったり、検査を外注した時には消費税を払わなければならず、その支払った消費税は医療機関が負担しなければなりません。医療機関が負担する消費税分は診療報酬に反映されており、弱者に優しくはありません。一方、診療報酬への上乗せも十分ではないようで、医療機関の経営の負担にもなっています。
医療関係の方にも意外と知られていない消費税の納税額計算のカラクリをまとめてみました。

ピアスを開けました

40代にして、耳たぶにピアスを開けました。もちろん皮膚科のクリニックで。
学生の頃、ピアスを開けた同級生が「体液がにじみ出てくる」と痛々しいことを言っていたのを思い出して、不安になりました。が、全然そんなことはなく、「若くない方が、水分が少なくてかえって良いのかも」などと思ったりもしたのですが、2週間経ってまさかの腫れ。やっぱりトラブル無しとはいきませんね。1ヶ月くらい経ちましたが、まだまだファーストピアスは外せそうにないです。

これで終わると単なる日記になってしまうので、皮膚科の領収書を見てみましょう。
ピアスの穴開けの処置は自費治療で健康保険の適用外、消費税が別途請求されています。

お医者さんに処置してもらった場合、消費税が非課税の処置と消費税のかかる処置がある

消費税は買い物をしたり、サービスを受けたりしたときにかかります。ただし、消費という言葉に反して消えてなくならないものや社会政策的に税金を掛けるのはどうなの?という取引もあります。そのような取引は13項目限定で消費税を課さないこととされています。この消費税を課さない取引を非課税取引と言います。

体調が悪くてお医者さんに診てもらうときの診察代も非課税です。「社会政策的、もう少し言ってしまうと人道的にどうなのよ?」という視点ですかね(という建前ですが、前述のとおり、消費税は弱者に優しくはありません)。

非課税になる診察代をもう少し具体的にいうと、健康保険法、国民健康保険法、船員保険法、国家公務員共済組合法(以下、同じような法律が列挙されている)による医療や入院の食事代です。
ピアスの穴開けは健康保険法などによる処置ではないので、消費税がかかります。ピアスを開けないまでも、健康診断を受けたり、インフルエンザの予防接種を受けたり、と保険適用外でお医者さんのお世話になることがあると思います。これらも消費税がかかります。
ちなみに、出産にかかる費用は保険の範疇ではありませんが、医療とは別の扱いで非課税として13項目のうちの一つになっています。

薬や注射器が非課税の処置のために使われたら、どうなる?

消費税は間接税。税金の負担者は消費者ですが、税務署に納めるのは消費者から消費税を預かったお店などの事業者ですよね。お店などの事業者がいくら税務署に納めるか、の計算方法は、商品を売ったり、サービスを提供した時にお客様から預かった消費税から、商品や材料の仕入れ、経費の支払い時に支払った消費税を差し引きます。
実は、どの売上のために買ったのかによって、支払った消費税を差し引けるかどうかに制限があります。


非課税売上のために支払った消費税は、引けないのです。「非課税売上は消費税を預かってないから、引くのもダメ」という理屈です。引くのがダメだから、診療報酬に反映させなければならず、弱者に優しくないと言われるのですね。

血液検査のための注射器と注射針の購入には消費税がかかります。クリニックは注射器と注射針を買うときに消費税を払っているのです。
そして、体調が悪くて来院した患者さんの血液検査に使ったら、つまりは保険診療で注射器と注射針を使ったら、支払った消費税を引くことができません。

一方で、健康診断のために使ったら、注射器と注射針を買うときに支払った消費税を引くことができます。
でも、注射器や注射針を、保険診療に何個使った、自由診療に何個使った、と記録するのはとても大変で現実的ではないです。このように両方に使えるものは、非課税売上と課税売上の比率で按分して差し引きます。
クリニックが仕入れるピアスは自由診療にしか使いませんから、仕入れたときの消費税は、全額を引くことができるのです。

仕入のために支払った消費税の多くはクリニックが負担する

病気の治療がメインのクリニックでは、医薬品や医療用の消耗品などの購入時に支払った消費税をクリニックが負担します。今年の10月に消費税率が10%に上がると、クリニックなどの医療機関の負担する消費税はさらに大きくなります。
診療報酬の見直しには、このような消費税も反映されています。
お医者さんで構成される医師会でもこの問題について意見をまとめて法律改正を働きかけているそうです。