決算日間際に入庫した商品。支払予定は3か月後だけど棚卸商品なの?

こんにちは。税理士の石川です。

期末には在庫の棚卸、しますよね?今日は棚卸に関して税理士とクライアントの間で生じたある誤解を紹介します。まず、会話を確認してみましょう。

社長「うちは取扱い商品数が少ないので在庫管理システムを使うほどでもないし、エクセルで表を作ろうかなと思っているのですが。そもそも棚卸とは何を確認すればよいのですか?」

税理士「エクセルで表を作って管理する方法でも問題ありませんよ。まず、倉庫にある商品ごとの数を確認してください」

社長「商品ごとの数の表があればいいですか?」

税理士「単価も調べなければなりません。原則的には『最終仕入原価法』といって、商品ごとに期末に一番近い時期の仕入単価を使います」

社長「わかりました。単価は請求書や発注書から調べます。商品名と数量、単価のリストを作ればいいですね?」

税理士「それでお願いします」

さて、本当に大丈夫でしょうか。

リストを確認中

一つめの誤解

税理士「あれ?期中の仕入に対して在庫が多いですね」

社長「そうですか?倉庫にあるものを数えたのですが」

税理士「この○○○○という商品、ずいぶん高額ですが、いつ仕入れました?請求書を見た記憶がないような」

社長「それは今回初めて取り入れた商品で、仕入先と相談して、3か月後に請求書をもらって払う予定です」

税理士「そうなると、仕入を計上していませんよね?」

社長「払っていないのに仕入ってどういうことですか?」

税理士・社長「??????」

二つめの誤解

税理士「この△△△△50%/100個とはどういうことですか?50個という意味ですか?」

社長「それは仕入先から手付金を先に払ってほしいと頼まれて、商品代金の半分を先に払ったんです」

税理士「ではまだ倉庫にはないということですよね?」

社長「そうです。倉庫にはありませんが、お金を半分払ったので50%はうちのものですよね。ですからリストに入れました」

税理士「その商品代金の半分を支払ったときの請求書をもう一度見せてもらえますか?」

社長「良いですけど、なんで?」

社長は簿記の勉強をする必要はありません。ですが、まったく知らないと上記のような税理士との意思疎通に不具合が生じ、間違った決算書を作成してしまうリスクがあります。仕訳を起こせる必要はありませんが、入荷から棚卸に至るまでの簿記に即した考え方の流れを知っておいていただきたいと思います。

では、商品の仕入れから確認してみましょう。

仕入の認識に最も重要な書類は?

仕入れは「商品が自社の品物になった時」に計上します。「商品が自社の品物になった時」がいつか、ということですが、商品の性質などによっていくつかパターンがあります。商品が届いたら「注文したとおりの品物が届いたか、発注書と照らし合わせる」「不具合はないかテストする」などを行っていますよね。そのようなチェックを経て「OK」となったときに仕入を認識します。このように考えると、仕入の認識に最も重要な書類は「領収書」ではなくて「納品書」や「検収書」なのです。

支払いをしていないのに仕入でいいの?

支払いをしていなくても仕入でいいのです。仕入とともに「これから払わなければならない義務」=「買掛金」という負債勘定を同時に計上します。

請求書をまだもらっていなくても?

仕入先とはほぼ毎月継続して取引があり、「月末締め翌月払い(または翌々月10日払い)」として納品の翌月初あたりに請求書をもらっているというケースが多いでしょう。上記で「仕入れの認識に最も重要な書類は納品書や検収書」と書きましたが、会計ソフト入力の際は、納品書ではなく、振込金額と合致する「請求書」から仕入れを確認することが多いです。決算月の翌月払いや翌々月は特に注意し、仕入れの計上漏れがないよう確認しています。毎月取引のある仕入先の請求書がなければ「□□商社の請求書がないようですが?」とお聞きすることもあります。

しかし、「一つめの誤解」で紹介したように「3か月後に請求書をもらって払うつもり」というようなイレギュラーなものがあると気づかないこともあります。

請求書などの書類が出てこないのに仕入れの計上漏れを見つけるのは至難の業です。「仕入をしたけれども請求はまだ先」というものがあれば、必ず税理士と情報を共有してください。

で、棚卸って何なの?

棚卸は「売上原価」を計算するために行います。売上原価とは売った商品の原価です。売上から売上原価を引いたものが利益(売上総利益=粗利)であることはわかりますよね。

決算書を作成するときに商品を売ったときの粗利はどのような思考経路で導かれているのでしょう?

「今、780円で仕入れた靴下を1,000円で売った。だから220円の利益」

「950円で仕入れたTシャツを1,050円で売った。だから100円の利益」

と商品一つ一つを積上げているのでしょうか?実は違います。

「期中に25,000千円の売上があった。売った商品の仕入れ値の合計は17,250千円だった。だから利益は7,750千円で、粗利率31%」

というように期間で合計して計算します。

仕入値の合計は「期首棚卸高」+「当期仕入高」-「期末棚卸高」という計算で出します。売れた商品の仕入値を一つ一つ洗い出しているわけではないのですね。

これを図解したのが下の図です。

下の図の期末棚卸高の枠を見てください。期中の仕入にベージュのパンツがないのに期末棚卸にはベージュのパンツが入っています。

一つめの誤解はこの状態です。本来はどうあるべきでしょうか。それが下の図です。ベージュのパンツの仕入を認識し、期末棚卸としてカウントします。期末間際に入荷したけれども一つも売れなかったので、期末棚卸にそのまま残っている状態です。

 

いかがでしたでしょうか。次回、二つめの誤解を解説します。