ふるさと応援をビジネスにする

2019年の10月に会社を設立したKさんとは、関東信越税理士会川越支部の無料相談会で知り合った。Kさんの会社は「出身地会津を応援したい」という目的の下、会津地方の生産者から美味しいものを買い集めて販売し始めた。

事業を始めて1年目といえば、固定客もなく、苦しい時期である。そこへ、2020年のコロナ禍。実店舗を持たず、イベント販売から始めたKさんは知名度が上がる前に販売機会を失ってしまった。今は、方向転換を模索中である。私も何か力になれればと思い、つてを頼って、Kさんとともに、一般社団法人なまらいいんでない会代表の真柄秀明さんにお話を伺いに行った。

なまらいいんでない会は、北海道出身である真柄さんが北海道を応援することを目的として設立した団体で、2020年6月、浅草言問通り沿いに北海道のアンテナショップなまらもんをオープンした。ちなみに、「なまら」とは北海道の方言で、「すごく」、「とても」、「非常に」という意味である。

「浅草で、ホッピーを飲みながら出身地応援ビジネスの先輩にお話を聞こう」という気取らないアポで訪問したが、真柄さん自身、とても気さくな方で、ざっくばらんにたくさんのことをお話してくださった。「手弁当だよ」と言いながらも、活動は多岐にわたり、しかも、手弁当からの脱却の道筋がきちんと立っていた。活動内容を少し紹介すると、

  1. なまらいいんでない会の会員組織を作り、会員サービスとして北海道の勉強会や交流会をする。→固定客を獲得する仕掛けは欠かせない。
  2. 自治体の広報課や振興課にアプローチして、なまらいいんでない会が本州での情報発信を担う。「役所の人と話をすると、『地元に企業を誘致したい』と言うんだよね。でもそれって日本中どの自治体もみんなやろうとして、どこもうまくいっていない。そうではなくて、例えば、日本中からバーチャルな市民を募集して、地元の花火大会の日程みたいな法律的に影響のないものについての投票権を与えるなど参加型で興味を持ってもらうなど新しいことをしなければ」と自治体にアイデアを持ち込むこともある。
  3. なまらいいんでない会応援認定システムを作り、応援認定証を発行している。認定した商品やサービスは様々な形で徹底的に応援する。ポイントは、認定された側が認定証をどう扱うのかを気にしないこと。

などである。

そして、肝心の収支であるが、なまらいいんでない会の会員にお中元お歳暮の品物を購入してもらう、自治体に対しても、来年度以降、情報発信の対価をもらえるよう交渉を進めており、収入の見込みが立って来ている。これらによって浅草のアンテナショップの家賃を賄えそうだ。会員数や交渉中の自治体数を考えると「良い線」を行っており、近々、活動の報酬もそれなりに得られるようになると思われる。

しかも真柄さんはこの活動の承継も考えている。真柄さんは現在60代後半に差し掛かっているが、手伝ってくれている40代のスタッフのうちの誰かに引き継いでほしいという。スタッフは各々本業があるが、そちらが一段落してくるであろう55歳くらいを目途としている。

さて、肝心のKさんの反応であるが、浅草から戻った翌日、「地元の方との接し方、事業の進め方などお話を伺えて財産になった」と、とてもありがたいお礼のメールをいただいた。この数ヶ月は、私もつい、Kさんの会社の業績について、商品を売るための宣伝の仕方がどうとか、1日の販売数、利益率がどうなどの各論に目が行ってしまっていた。真柄さんのように事業の目的にしっかり軸足を置いて今後の方向を一緒に検討していきたいと思う。

※税理士会川越支部の会報に掲載したコラムを加筆修正して転載しました。

参考サイト
福島うまいもん あいさいびれっじ